e日記風 独り言

気まぐれ & 気まま & 天邪鬼な老いぼれ技術屋の日々の記録のうち、人間の性格や本質、能力、考え方から文化論までに関連した記事です。
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-1604- またまた、続き
(思い出中心になったが、まだ続く)
そうこうするうちにスタートから3ヶ月が過ぎて元の事業部の事業部長と設計者を出す出さないで大げんかしつつも、社長肝いりということで設計者が数人移籍し社内では本格的な設計が開始された。しかし実はその時点でも残り9ヶ月で生産開始するという日程計画が具体的に出来ていたわけではない。従来製品の品質確認とその対策方向付けの会議日程を参考にしたら、設計終了して少数試作と量産試作の最低2回の評価を回す日程計画はどうやったって出来る訳がない。
しかし、生産が9ヶ月後に迫っているということは、当然生産部品の手配から新製品発表会の会場予約など決めなければいけないことが山積してくる。もはや開発という枠内だけでは進められない所に至って、やっと私も腹をくくった(括らされた?)。
既存事業なら万が一の失敗では工場が空く上に売上の穴など莫大な損失を免れないが、皆から反対されている新事業ならそれまでの実績では十中八九が失敗しているから逆に誰も期待はしていないから気が楽だ、どうせ責任取るなら負えるだけの責任を負ってやろうと。そこで計画案提示を迫るリーダーに、残り9ヶ月で生産開始する条件として組織の改変を提案した。開発設計と製品品質評価の責任は分割するという製造の基本ルールからは逸脱するが、開発責任者の私の下に品質評価部隊を組み込んで、最終品質判断も私が行うことにした。従来の品質会議では双方の責任の押し付け合いの駆け引きで紆余曲折して数ヶ月を費やすという今までの歯がゆい経験と、どうせ民生のデジタル製品の適正な品質判断を私以上に出来る人材はいないという思い上がりの決断だった。最悪のケースを考えれば、どんな不良品でも私一人の判断で市場出荷できてしまうというこの提案は即了承されたが、その超法規的組織形態への風当たりは 当たり前ながら特に技術系役員から目の敵のように攻撃された。そしてその度に「1年で商品化しろ」という社長の一言を錦の御旗として、「他に1年で商品化出来る方法があれば具体的に提案下さい。なければ責任は私が取りますからご心配には及びません。」と押し切った。まぁ、責任取るって言ったって命までとられることはないんだから、と居直った生意気な社員に映ったに違いない。
だが後から考えれば、あの組織なくして「1年」の実現はあり得なかった。不具合の報告が上がると、詳細に原因を解析している時間はないから、最低限のデータで原因を推測し設計や製造方法の対策案とチェックポイントだけを指示して次ステップに進めた。相手製造工程での問題が生じたら即相手事業部長に直談判してトップダウンで製造部門を動かしてもらい、S社側の設計に問題が見つかった時は相手担当部長に対処方法を聞いたが、それが「甘い」と感じたターニングポイントの問題では自社の担当役員を担ぎだして実質的な生産移行の決断だからと相手事業部長にも同席を要請した上で方向付の会議を開いた。ここで驚いたのは、そうした私の狙いに気づいてか相手事業部長は、一切を部下に説明させることなく自身で全てを説明してくれた。こうした策で相手の部長以下も事業部長に説明させる内容を反芻し 更にはその事業部長自らの説明を反古にする訳にも行かないからより真剣に対策が進められた結果、奇跡とも言える計画通りの日程が実現した。そんなことの繰り返しで残り3ヶ月の時点で生産移行の判断を下し、最終品質確認を待たずに発売開始日程の刷り込まれた記者発表の案内状が発送された。
時間は若干遡るが、記者発表の日程が決まり会場も予約ができた時、広報責任者が私の所に来た。従来から記者発表は製品開発責任者が行う決まりだから私にやれと言う。またまた経験のない事態に陥った。実はそれまでカメラではメカ設計のリーダーが発表を行っており、私は記者発表会そのものには出席したことすら無かった。問題は発表に使用する資料だが、広報の話ではそれまではOHP(オーバーヘッドプロジェクタ)を使用した発表が行われていたと言う。だからOHPシートの原稿を何枚くらい用意しろ、原稿を出せばOHPシートには広報が仕上げる手順だという。私はそれを聞いて、デジタルカメラの発表にOHP?と違和感を持った。当時はインクジェットプリンターを使ってOHPシートを作りカラー写真を投影していたが、あのシートを一枚ずつ手でめくって話すスタイルはどう考えても斬新さに欠ける。デジタルカメラには合わない。どうせならパソコン画面をプロジェクタを使ってプレゼンテーションするスタイルでデジタルカメラの有用性をアッピールすべきだろうと。しかし、それを広報に提案すると広報にはパワーポイントを作ったことのある人間はいないという。私もそれ以前にはアメリカのアップル社などが来社してパワーポイントを使ったプレゼンテーションを見たことはあるが、自分で作ったことも操作したこともなかった。しかし広報にはできうる限りの高輝度なプロジェクタの手配だけを依頼しOHPの手配は断った。
思いついたらやらなければ気がすまない性格が災いして、そこからまた自分の撒いた種に苦しめられる事になった。試作で出来たばかりのデジタルカメラを使い、試作デジタルカメラ自身や周辺機器のモックアップ写真、あるいは身近な人物を撮影してはパソコンに取り込んで、発表会前に1週間ほどあった夏休みを全て返上して自宅に籠城してパワーポイントの操作を覚えつつ自分で発表会資料を作成した。慣れないパワーポイントの自作処女作でいきなり人生初の記者発表を行う・・・・もう神経が麻痺してこの頃は無謀も普通になっていたのかも知れない。
だが、業界記者達にもまだそこそこ目新しかったであろうパワーポイントで、ふんだんに高画質のカラー写真とスライドショー効果を使ったプレゼンテーションは、文字で製品仕様を書き並べ数枚の写真を間に織り込んだOHPと比べれば、私の下手な説明を補ってもお釣りが来るくらい ずっとデジタルカメラのアッピールに役立ったと自負している。「こんな綺麗な新製品画像入プレゼンテーションが、フィルムを現像に出して漏洩する心配や現像待ち時間もなく出来るようになるんです」というメッセージを込めて。そして記者発表に続く製品展示イベントでは新製品に群がる業界記者たちの興奮が伝わってきたし、広報責任者からは「大成功」の賛辞も頂いた。
発表会を終わっての帰りの電車で、興奮の余韻に浸りながら、やはり自分は荒野のど真ん中にレールを敷くのが好きなんだ、白紙以外 ぬり絵や他人の模写のような絵は私には描けないんだ、とつくづく思った。

今日の写真は、娘の家の庭に植えられたナナカマドの花。紅葉とは裏腹に質素な花だ。
性格・能力(デジカメ開発)・考え方・文化論
2016/05/17