【Ⅰ】今、頭を使うことが苦手な若手技術者が増えている


ドキュメント履歴: 2003-07-xx 初回アップ

4.機能展開ははたして有効か?

 色々な要因が複雑にからみあっているテーマを、洩れの無い完全な検討で成功に導くために機能展開あるいは要因展開といった手法が利用される。
しかし機能展開図を作成して仕事をする場合の検討の仕方を見ているとどうしても一つの疑問がわいてくる。それは機能展開図を作るまでは一生懸命考えるが、一旦展開されてしまえばあとは忠実に展開図に従って全ての要因をつぶしていく人が多いということだ。機能の展開は確かに系統だって行われており、「洩れ」が入り込む可能性は少ない。しかし検討を見ていると決して効率的ではないし、結果的に最適解に到達しない場合がよく見られる。少なくとも機能展開図作成が全ての技術検討の十分条件だとは思えない。
 なぜ効率的でないのかと、熟練技術者(彼らは往々にして機能展開など無視して仕事をしているように見える)の検討方法と比較してみると、第1に熟練技術者の頭の中に展開された機能は画一的な重み付けではなく、その時々で必要に応じて重要度が変化している。第2に彼らはまず予測をし、その予測を確認するために実験し、実験しながら考えて、途中経過を見ながらすぐその場でフィードバックして次の検討の仕方を変えている。言ってみれば熟練技術者の頭の中には、常にその時々でダイナミックに変化する機能展開図が存在しており、常に脳ミソが活性化している状態で実験をしている。逆に技術検討とは決して静的な機能展開では意味がないと経験的に悟っているから、物にも触れないで最初から机上で機能展開図を作るなどという無駄はしない。
 これに較べると経験の少ない技術者の場合は、セオリー通りに机上で機能展開図を作成してから検討に入るが、しかし入った途端脳ミソは不活性状態になってしまって、ただひたすら紙上の展開図を埋める作業に没頭している。不幸にして(!)もし先人が機能展開していてくれたらそれこそラッキーだ(?)。先人の展開した展開図に従って洩れのないように一つ一つ枝を塗りつぶしていくだけだ。物に向かった時は余分なことは考えず、ただひたすら正確に早くデータを取ることだけを考えるだろう。彼の上司は口を開けば決まって「効率的に!」と唱えるのだから。
 では、机の前で紙に向かって機能展開しているときと、実際に物に触って検討しているときとでは、一体どちらが技術者の頭は活性化されているか。おそらく物に触れている時の方が何十倍かあるいはそれ以上頭が回転するに違いない。技術者の脳ミソの活性化に対して目前の現象はいわば触媒のような働きをする。まず機能展開してから検討するやり方は、より完全な科学反応をさせようというのに、触媒の無い状態で反応をさせ触媒を与えてからは反応を求めないようなものだ。モノに正対してその現象を生じせしめている背景の原理原則にまで思いをはせながら、脳ミソを活性化させて創造のエネルギーレベルを高揚することが何より必要だというのに。
 若い技術者にいきなり熟練技術者の検討の仕方を表面的に真似させて、行き当たりばったりで検討させろというつもりはないが、少なくとも若い技術者にこうした思考訓練もさせずに、ただ教科書的な機能展開を教え、出来上がった機能展開図に沿って仕事をさせることは、創造性を奪う良くない習慣付けをしていることだと思うがどうだろう。

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