【Ⅰ】今、頭を使うことが苦手な若手技術者が増えている


ドキュメント履歴: 2003-07-xx 初回アップ

8.技術の進歩も設計者を退化させる? 「EEPROMの罪悪」

 今から約20年前にEEPROMという便利な記憶素子の出現で、他の民生機器に先駆けてカメラの制御システムに自動調整という概念を導入したのは他でもない当の私なのだが、しかし暫くしてその技術が設計技術者にもたらした変化に付いて憂慮している。というのは、CPU技術の進歩とEEPROMのbit単価の低減で、カメラ設計に於いてはEEPROM無しでは設計という物が考えられない状況になってしまった。つまり、基本設計をして制御パラメータの種類さえ決めて考え得る最大種類のパラメータをEEPROMに設定しておけば、パラメータの詳細は後になってから(設計と?)部品の出来映えによって決めれば良いという方式になってきた。この流れは極論すれば、究極まで設計をつめて目標と実際の差に付いて検討するという設計のセオリーが、大体の設計が終わったらモノを作ってデータを採り、出来上がった部品に設計(EEPROM値)を調整して合わせるというやり方になってしまったことを意味する。
 もちろん全ての設計者がそれを常としているわけではないが、少なくとも新しく入った設計者が便利な設計方法を表面だけ真似してしまって、技術検討の仕方をそれに合わせているのではないかというのが私の懸念である。中には先人の設計を移植して新製品を設計したが、その中に含まれている調整パラメータの意味がよく分からずに、何でも後から調整できると思い込んで、途中検討の手を抜いて最後になってその調整値では調整不可能だとか、調整範囲が足りないことを指摘されてお手上げになってしまうという笑うに笑えない状況にお目にかかることすらある。
 少なくとも10年20年前のまだ半固定抵抗が高価だった頃、本当にポイントを絞って1ヶ所か2ヶ所でシステム全体の調整をするような絶妙のバランス設計はもう最近の設計者には出来ないのではないだろうか。(メカ設計にこのような設計が現在でも必要か否かは私は知らない。しかし電気回路に関する限り基本的なアナログ回路の性能はむやみに調整によらないで素子同士がバランスする設計が最高の性能を生むことはDr.Peaseの説によらずとも明らかである。)
 蛇足ではあるがその昔私は、初めて二重積分方式のアナログ/デジタル変換回路の原理を知ったとき、それぞれの機能素子が誤差を打ち消し合うというその巧妙さに感激していつか自分でもこうした絶妙の回路を考案したいと胸踊らせたものだったが、今や素子の微細化・高集積化とも相まって1素子・2素子と切詰める最小回路規模設計すらも意味の薄い状況になりつつある。

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