ドキュメント履歴: 2003-07-xx 初回アップ
7.無駄な技術者の階層化が進んでいる
アメリカ式管理方法・職務分担は我々の日常の技術検討には合わない。
非常に優れた能力の科学者が理論を立て、優れた技術者が検討計画を立案し、普通の人が計画通りの実験をしてデータをとって報告する。アメリカ人の開発マネージャーに会って驚いたのは、彼らが設計の隅々まで熟知しており、細部の質問にまで即座に答えを出すことである。確かに彼らのような非常に頭の良い人間には面倒くさい実験等をさせずに自由に考えさせておく事が理想かも知れない。本当の天才ならホーキング博士のように彼の頭の中だけで大宇宙の摂理を構築してしまうのだから。
しかし我々は物理学の大法則を実証しようと言うのでもなければ、5年 10年かかって長大なシステムを構築しようというのでもない。わずか1年かそこいらで過去の延長線上のような製品の開発を繰り返しているのであって同じ原則は通用しない。最少の人数で最大のスピードで最高の効率で製品を市場に送り出す事が求められている現在のメーカーの開発組織では、全ての人が開発の駆動輪にならなければならないのだ。
「オレの考えたストーリーに従ってデータをとれ。君たちは余分な事は考えなくても良い。早く正確な結果が出さえすればいいんだ。」
「誰かが考えてくれて打合せで方法が決まったら、私の役割はデータをとること。例え結果が期待値から乖離していこうとも、一連のデータは採り終らないと報告出来ない。そのデータが何を意味するのかはもっと責任と経験のある人が考えてくれる。だから私は何も考えずにただデータをとるだけ。」
という役割分担は通常の開発組織においては大きな無駄を生むことになる。
たしかに経験の浅い技術者を使って当面の効率を優先したら、考える人と検討する人は別人の階層化をするのが手っ取り早い。経験の浅い人間を技術者と認めて、いちいち説明して検討が迷走するより、指示しただけのデータを早く採らせた方が確実だ。
しかしこうして当面の効率だけを追及する結果、知らず知らずのうちに貴重な金のタマゴは命令に忠実な会話翻訳機能付き自動データ採りマシンになってゆく。こうした習慣がつけば、実験セットを前にして、データ取りをしながら下手に考えて間違えるよりは、むしろ一心腐乱にデータ取りするマシンになった方が楽だ。データをとっている間は少なくとも確実に仕事をしているという充実感に満たされている。こうしてやがて一人で考えながら検討すべき場合でも、考える時間とデータ取りの時間は一人二役で全く別の人になってしまうことが心の葛藤を防いでくれる事に気づく。誰であれ自分の今やっている仕事を疑うことは不安な事である。
そしてデータをたくさん採って、Excelでグラフ化すればきれいにまとまっていい仕事が出来たような錯覚に陥いる。こうして一つ一つのデータに目を光らせず、当初の期待値とかけ離れたデータが出てきても何も反応しないで、ただひたすら計画通りデータを採り続ける人間データ採りマシンが確実に出来上がっていく。ここでも矢張り考えない技術者が育っている。
これに対して効率の良い技術検討をするためは、頭の中に検討ステップのフローチャートを描きながらデータを採りながら頭がフルに回転していなければならない。一つデータが出るたびに、こんなデータが出たけどどうしよう、何か条件が違っていないか、設計は大丈夫かと悩み、思い通りの結果が出たら次は何をしよう、ヒョットしてもっと良い結果が出る方法があるのでは、・・・等等、物を前にしての思考は無限に広がる。頭脳が活性化していれば、一つデータをとるたびに頭の中のフローチャートはダイナミックに変化していき、常に最適解へのクリティカルパスを模索している状態となる。組織の全員がこうした技術検討が出来たとしたら素晴らしいことだ。
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