【Ⅱ】 頭脳労働へのヒント


ドキュメント履歴: 2003-08-xx 初回アップ

Ⅱ-9.身の丈以上の要求が人を育てる

 前々章で、エンジニアの能力を引き出すためにおだてて乗せると言うことを書いた。
しかしこれだけで全ての能力を引き出すことは難しい。これと、セットのようにして使い分けるべき方法がある。
一般的に人は誰でも保守的で保身の本能を持っている。革新的でチャレンジングだと思われる人でも、この保身の本能は常に顔をのぞかせる。有名な話としてF通の人事制度改革で成果主義を導入し、人事評価を設定目標に対する達成度で評価するようにしたところ、社員は皆評価の時に成果を出しやすいように目標を予め低く設定したり、あるいは比較的簡単に達成できるようなテーマを選んで目標設定したりといった事例が続出したと言うことで、これは保身本能を引っ張り出す人事制度の代表ではないだろうか。
 こうした保守・保身本能を否定し、その人や組織の能力のMaxを引き出すには、要求目標を高く設定しそれをあくまで要求しつづけることが大切である。エンジニアはこうした要求を突きつけられるとつい身構えてしまい、その要求が理不尽で到底実現できないレベルであると必死に説明しようとする。この説明が正しくても正しくなくても、その説明を聞いて要求を下げることは要注意である。多くの場合、こうした目標の引き下げ要求は自分が考えている自己やその組織の能力がその基準になっている。そして自分やその組織の能力はこの程度、今までの実績から努力しても達成できるレベルはこれくらいと言う身の程をわきまえた目標設定になっている。そして一旦こうした目標設定をしてしまうと、例え途中で目標がクリアーできたとしてもすでにその先は目標通りの予定に沿って準備されているから、これを前倒しすることは困難であり、多くの場合余裕が出来た日程は余分な作業に食いつぶされる。
 ここで、遊びを知っているエンジニアは遊びながらも、次のテーマなどに向けた準備をするのだろうが、普通は・・・とくに組織では無為に時間を過ごすことになる。それに対して、厳しい指導者に要求を突きつけられると、能力あるエンジニアは何とかその要求をクリアーしようと工夫する。自分で出来なければ、逆に指導者に「これが満たされれば」というような取引を迫ることもある。こうしてとにかく彼が使える全ての力を振り絞ることになる。その結果、意外にもエンジニア自身も気付かないほどの力を発揮して、周りの人たちもびっくりするくらいの成果を出すことになる。実はこのエンジニアの実力は、本人も気付かなかったのだが、それ以前のものではなく要求されてはじめて真の実力が発揮されたことになる。本当に優れた指導者は、こうした能力と与える課題をきちんと把握した上で要求をしていると思われるが、少なくとも安易な妥協はしていない。これはまるで、世界の頂点にスポーツの選手を立たせたような指導者が、 その過程では過酷とも思える要求で一つづつ目標をアップさせて挑戦させていつの間にか選手自身も想像しなかったような成績を上げさせるのに似ていないだろうか。

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