【Ⅰ】今、頭を使うことが苦手な若手技術者が増えている


ドキュメント履歴: 2003-07-xx 初回アップ

6.シミュレーションが考えない技術者を量産する時代

 最近のコンピューターの進歩は目を見張るものがある。
少なくとも手順の決まった計算の早さと正確さにおいては他のいかなる方法にも勝っている。従ってコンピューター利用の典型として、構成要素を細分化・単純化していって、各要素内と各要素間に付いて決まった計算手順で数式表現可能なものとし、それを気の遠くなるほど繰り返し計算をすることでコンピューター上であらゆる現象を再現させ得るような手法が確立されてきた。いわゆる有限要素法、コンピューターシミュレーションである。模擬的な実験などによってでは設計の検証が困難な、例えば超高層ビルの耐震性についてとか、極限にまで微細化したICの回路の高周波領域に於ける挙動に付いて等、コンピューターシミュレーションなくしては不可能な技術進歩は枚挙にいとまがない。今やおよそ設計と名の付く領域でシミュレーションを活用しないことは技術進歩を放棄することに等しい。
 しかしこうした風潮が隅々まで広まって、設計とはシミュレーションツールを使いこなしてさえいれば出来るものという錯覚が生じているのではないだろうか。たしかに斬新なアイデアを思いついて、その検証の為に苦労してモノを作らなくとも、シミュレーションを使ったらそのアイデアの有効性が確かめられる等というときに必要条件とはなり得る。しかし先人の物まね設計まがいをいきなりシミュレーションに放り込んで、結果を見ては細部条件を変えてシミュレーションをやり直すと言った、シミュレーションのトライアンドエラーしか知らずに設計者を気取っている人がいるような気がしてならない。同じ嘆きをコンピューターシミュレーションの先駆領域である光学設計の知人が漏らしていたのを聞いたことがある。
 手っ取り早さゆえに、考えるよりまずシミュレーション、理論よりカットアンドトライでシミュレーションソフトにエイヤッとデータを放り込んでみて、結果さえそこそこなら納得してしまう若い技術者が確実に増えている。
 実験によって検討をする場合は、実験のあいだ中モノと正対してアタマを働かせる時間があった。しかし高速のコンピューターを使ったシミュレーションを使うようになってからというもの、条件をインプットするのに時間がかかっても、結果が出てくるのに時間はそうかからない。必然的に一つ一つのデータを目の前にしてあれこれ考える時間は奪われる事になる。しかし何よりも部下がこうした方法で仕事をしてさえいれば良しとする安易な妥協を上司がしているとしたら、何年か後には不毛の設計部がごろごろしていることになる。

 間違ってはいけない。  コンピューターはあなたより何万倍も早く計算してくれても、あなたの何万分の1の創造もしてはくれないのだ。

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