岡目八目 その1

●  思い切って言ってみました

世の中、当事者や専門家よりも、部外者の方が問題の本質がよく見えていることは多々あります。ただしそうした率直な意見や見解は当事者から見れば迷惑千万で、歓迎せざるべきモノには違いありません。私だって嫁さんが仕事のことで口出しをしてくると、つい「素人が余分なことに口出しするな。」と思ってしまって、それがすぐ顔に出てしまって収拾が大変になったりします。後から考えるとそれなりに新しいヒントになる事もあったりしますから、本当は素人の見方もまんざらではない場合もあります。少なくとも当事者よりは冷静に分析できる分、傾聴に値するのではないでしょうか。これがこのページの「岡目八目」の所以です。
このページは、政治に対しては全くの素人、興味も強いとは言えない私が、思い切り大上段に振りかぶって、日本経済の現状、あるいは政治の問題点を私の身近な所からマクロ的に見ることにより、鋭く?えぐろうというものです。と言うのも、メーカーに勤め新製品の開発、技術の開発を行っている立場から、特に最近いくつかの疑問や矛盾を感じることが多いのですが、それらの殆どが日本のモノ作りの原点の問題と言えるからです。必死で開発した製品が1年もしない間に旧製品となってたたき売られ、しっかりとした品質の製品が、目先を変えた面白そうなヒット商品や大量宣伝の陰に隠れて評価をされなかったり、ついこの間買ったと思った商品があっという間に古くなって、ずーっと性能も見かけもいい商品が安く販売されていたりする現状を見ていると、モノ作りへの憧れとか、あるいは身の回りのモノ作りに携わる技術屋の幸せと言ったような、私のエンジニアとしての原点となっているけれど、今となっては懐古主義と笑われそうなことをつい考え直してしまうのです。

世の中、暗すぎる
今の世の中、明るいと思いますか?
TVのニュースや、新聞の記事を見るまでもなく、「会社がつぶれた」「銀行が危ない」「リストラがあった」という話は否応なく耳目を煩わせます。あるいは、現実に自分の給料と仕事量を数年前と比べて「余裕が増えた」と思える人は少ないのではないでしょうか。やはり世の中、暗いと思います。ただ、その一方で TVや新聞は、世界各地の戦争や貧困、差別といった日本にいては想像すら出来ないような情報も同時に伝えますから、「日本はまだいい方かも知れない」と思えてくることも事実です。でもこの先はどうでしょう。現状維持できるでしょうか。もっと悪くなることはないでしょうか。そこが一番問題です。
韓国や中国といった、まだまだ発展途上にある国に行って感じることは、日本にはすでになくなってしまった、貪欲ともいえるくらいのパワーです。皆が何とか豊かになりたい、アメリカや日本のようになりたいと必死になっていることが感じられるのです。それに比べると日本は、現状維持に汲々としているか、あるいは脱出口が見つからず右往左往しているように感じられます。

中学社会科の復習
我々が昔(40年位も前ですが)社会科の授業で習ったことは、産業には1次から3次産業まであるが、特に労働資源しか持たない日本では、外国から原料を買って豊富な労働力で加工して付加価値を付けて、商品として再び海外に売って利益を得ることが日本の経済発展につながる唯一の方法ということだったと思います。そのためにエンジニアを養成する学校をたくさん作って、理系の教育を重視して来た、そうした政策がかつてはありました。
そうして海外から安い原材料を調達してきて、信頼性が高く魅力があって競争力の高い製品に仕上げてより高く売る、それによって外貨を稼ぎ生まれた利益のおかげで国全体が豊かになる。そうした製品を自分達も買うことが出来るようにもなるし、余った外貨で珍しい食べ物も輸入して食べることが可能になった。このように 2次産業が牽引して経済発展することで物価が上がり 1次や3次産業に従事する人達の収入も増えて、国民全体が豊かになってきた。ここまでは確かに社会科で習った通りになって来ました。これは多分今でも変わらない原則のはずでしょう。それからすると最近の政治や経済の世界の専門家の発言で気になるのは、日本の景気回復が単に国内の経済連鎖だけで可能になるという主張がされていることです。

景気は本当に回復するか?
 身の回り働けない中高年や、或いは働こうとしない若者でいっぱいです。指標としての失業率は 5%台でも、それは統計上のアヤで実質仕事が欲しくても就職できない人は 10%以上いるだろうとか聞くと、然もありなんと思ってしまいます。政治家だったらそんなことは言われるまでもなく承知していることでしょう。しかし日本の現状を見ると、何とかの一つ覚えの如くに公共投資をすれば、いや福祉に税金を投入すれば景気回復が可能になる、内需を拡大すれば景気が良くなると大真面目に論じている政治家しか見あたりません。そうした論議を聞いていると、腹立たしささえ覚えます。一体豊かになるための原資はどこから生まれてくるのでしょう。いっときは勤勉に蓄えた貯蓄が吐き出されて金回りが良くなっても、そんなのはタコの足食いと一緒であっと言う間に使い果たして、もっと悪くなりはしないか、そう思っているから誰も虎の子は箪笥にしまい込んで手放さないのではないでしょうか。 日本経済躍進のエンジンであった製造業が今どうなっているか、残念ながら分かっていない専門家ばかりのようです。

なぜ製造業は衰退したか
一般的には、製造業の衰退は国内労働賃金が高沸しすぎて安い海外労働力との競争に敗れた結果、製造が海外流出したためだと言われています。あるいは、東南アジアの技術力、経済力が高まり、国際競争力をつけて日本の製品を駆逐しつつあるからだとか言われています。確かに近眼で現在の現象だけ見ればそれは違ってはいません。しかしそこに至るまでの問題点が何であったのかの議論をもっとすべきでしょう。少なくとも日本が発展する過程で、米国の製造業が衰退していく過程を見ていたら、「明日は我が身」と思わなかったらおかしくないでしょうか。それを誰が思うか、経営者か政府か政治家か、多分皆少なくとも自分以外と思っていたのではないでしょうか。こうした人たちは、往々にして 10年後は楽隠居することしか考えていません。右肩上がりの時代に、敢えて異論を唱える必要は無い人たちが殆どです。少なくとも政治家達は一番の関心事の「票」には繋がりませんから、そんなこと考えもしなかったでしょう。私も勿論そんなこと真剣に考えたことはありませんでしたが、でもこぞって製造業が海外にシフトして行き、それを早くやった経営者ほど評価される事には疑問を感じていました。「生き残り」という金科玉条を楯にして、国内利益を減らす行為がハイライトを浴びているのは何か違うと感じていました。一部企業が国内生産構造優先の勇気ある施策をとっている事に、心の中では賛辞を送りながら。
でも、個々の経営者からすれば、そんな理想を追い求めていても、実体が伴わなければ即刻断罪でしょうから、バラバラではどうしようもありません。来年の籾を食い潰してでも今を生きなければいけない現実の前に、皆が籾を食いつぶした結果が、今現実になりつつあるのです。物理の世界では「雪崩降伏現象」と言うのがあります。均質な物質内の部分的に起きた現象が、相乗的に他に波及して、全体に及び一気に状態が変化する現象ですが、製造業の海外流出は正にこの「雪崩降伏」と同じです。

本当に製造業は全て海外シフトが必要か
すでに海外の新興工業国に対抗メーカが生じて、価格競争が激化して同じ土俵では価格競争しかありえない、そんな場合はまず海外シフトして競争力をつけることも仕方ないかもしれません。しかし、中にはまだ海外に強力なライバルメーカが無いにもかかわらず、日本メーカ同士の競争に負けないために、率先して自社の製造を海外シフトしていくメーカも多いのです。生き残りのためには、海外シフトのスピードで他社に負けるわけにはいかないという理屈で、殆どのメーカがこぞって製造の拠点を海外にシフトしていく正に「雪崩降伏」が生じるのです。国際競争力は充分にあるのに、それらは何十年と言う年月に渡って先駆者が蓄積してきた技術の結晶であるにもかかわらず、わずか3年か5年でそれらの殆どが海外に流出していくのです。確かにこうした流れに一人で逆らって、結果生き残れなければ会社の存続はありえず、そんな奇麗事や感傷では済まないことでしょう。そこで必要になるのは、長い目で見た産業施策ではなかったでしょうか。

敢えて今、政治の介入を
こうした、長期展望にたった政策が欠如した第一の要因は、製造業の利益を代弁して政治に反映する”製造業族議員”がいないことだと思います。政治の世界では利益(金)が生じるところ必ずと言っていいくらいその利益を代弁する"族議員"が存在するのに、幸か不幸か製造業の利益を代弁する政治家は存在しませんでした。日経連・経団連という経営者の団体があっても、これらは建設・通信・医療・防衛などの業界とは違い、政治に近づくことを潔しとせず、逆に政治の介入をうまく回避していくことが方針だったのではないでしょうか。活力のある業界は、当然政治による「規制」が無い方が自由競争によって全体は大きくなることの方が多いでしょうから。変な紐付きになりたくないという高潔な姿勢は、政治と金のドロドロした話題が多い昨今の状況からすれば評価に値します。しかし、最近の銀行の体たらくを見ても、一旦下降曲線を描き始めた業界は、自力での再生は困難です。全体としてどうするのか、その中で個々の会社がどうするのかと言うようなシナリオがないと、無駄ばかりが多くなってしまいます。その意味で、製造業の業界でも今までは、政治の不干渉は正解であったと思いますが、かつての米国と同じように飽和→下降という局面を迎えて、個々バラバラの対応では行ききれなくなっているのを痛感します。

税金を生み出すところに無関心な政党政治なんて
前記のような日本経済 2次産業エンジン論からすれば、1次であれ3次であれ、その税金の源は殆ど製造業の利益から発していることになります。こうして国家予算の大部分を締めるであろう税金を生み出してきたにも拘わらず、逆に税金の使い道が無かったばかりに、代弁者の族議員が巣くわずに、苦しい時代になって誰も製造業を救済するために真剣にならない、利益となる政策は打ち出さないというのが現状です。不要な新幹線を作ることに対しての不毛の議論があれほどされるのに、国の本当の窮状の原因とも言える製造業の不振に一石すら投じようとしない政治家の貧脳さ、身勝手さにはいたたまれない思いです。
こうしたことに取り組むべきは、与野党を問わないはずです。与党である自民党は勿論ですが、労働者代表として労組票の上に胡座をかいていた政治家達も、労働者の利益=産業の発展 という図式からすれば、本来は一番真剣に関わるテーマのはずですが、残念ながら、あまりに矮小な認識しか持たず、労働者の利益=経営との対決というワンパターンの思考回路しか持ち合わせなかった為に、今やなけなしの税金のミクロな配分方法を血眼になって論じているとしか映りません。消費税アップは、トラの尾として誰も言い出せず、それ以外に有効な税収向上の当ても無いままに使う方ばかりの議論に精力を使い果たしている政治家なんて、失業したお父さんに小遣いをねだるドラ息子と一緒で、いない方がいいと思いませんか。

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