【U】 頭脳労働へのヒント



ドキュメント履歴: 2003-08-xx 初回アップ

U−10.現代技術者の背負っているもの

 ほとんどの人は革新を好まない。
技術屋だからといって変化が好きで、自己改革に前向きであると言うのは誤解である。ほとんどの技術屋も数多ある職業からたまたま技術分野を選択したに過ぎない。従って彼らの本質は安定指向である。それでも入社数年は社会人としての緊張感からか努力をするが、入社数年をピークとしてほっておけば停滞して能力は低下カーブを描く。
 一方電子技術・コンピューター技術の最近30年間の進歩は、それまでの何万年間に人類の手にした技術進歩をはるかに凌駕している。私が入社して20年足らずの間に、電気技術の分野ではトランジスター→アナログIC→デジタルIC→マイコン→ソフトウェア→ディジタル信号処理・・・と、いくら少なく数えても4〜6世代の技術変化があった。ほぼ5年に1世代の革新である。つまり一人の電気技術者が一生の間に遭遇する技術革新は少なくとも5〜6回という計算になる。電気技術者は新しい技術が出現するたびに、やっとのことで培った自信の保有技術を捨てて、難解な新しい技術に挑まなければならない。
 場合によっては自分の子供に近い年齢の専門家から、頭を下げて教えを請わなければならない場合だって生ずる。考えてみればそれまでのあらゆる職能の中で、何十年というキャリアの熟練者がまだその世界に入って間もない若造から教えを請うことなど、想像すら出来なかったに違いない。しかし現在の技術社会は無情にもそれを必須の行為としてしまった。非情であったとしても、それまでの彼の実績は老戦士の胸にぶら下がった単なる勲章でしかなく、新しい戦場においては何の武器にもならないことを悟るしかない。
 如何なるプロペラ機の勇士も、その戦功にすがりついて若い兵卒の教えに耳を傾けず新しいジェット機の操縦を理解しなかったら、新しい戦いには搭乗する機会すら与えられず、いつか引退を余儀なくされることになる。

 技術者はこうした極端な自己否定・自己革新を幾度となく乗り切らなければならないが、もし自分を肯定し革新を躊躇したら、その時点で彼は技術の波に乗り遅れる。波に巧く乗っているうちは次の波の動きも読みやすく、乗り移るべきタイミングも計りやすいが、いったん乗り遅れたら最後、再び波に乗ろうとしても並み大抵の努力では新しい波には乗れないであろう。
 好きだとか興味があってそれなりに身構えてこの世界に入ったのならとにかく、さしたる覚悟もなくこの世界に入ってしまった人にとって、この事には気付かずに過ごしてしまうか、または気付いたとしてもこのストレスは生やさしいものではないはずである。
 従って、放っておけば大抵の技術者は、この試練をいつか放棄して保守姿勢に陥ることになる。そしていつか組織の大勢は自己革新を怠けてしまったか、気付いてもすでに波には乗れない人達で埋め尽くされることになる。組織としてはこうなる前に技術者に対して、常に新しい波に乗り移らなければならないという意識と、いつでも新しい波に乗り移れるだけの運動神経を訓練によってつけさせなければならない。

著作権は Y.Nakajima に属します。 無断転載は禁じます。


Access Counter:  総アクセス数