【Ⅱ】 頭脳労働へのヒント


ドキュメント履歴: 2003-08-xx 初回アップ

Ⅱ-3.レポートを書いてから実験する

 一般的には、実験には目的があって、目的確認のために方法を考え実験を行って結果を調べ、結論を得てからレポート化するものと思われている。しかし実験とは或る理論・推論の検証のために行うものであって、実は実験の開始時に既に期待する結果と結論が存在するはずである。実験に先だって結果を予測し、この期待値を常に頭において実験をすることは経験豊かな人から見れば「何を今更」と言う程度の当たり前のことに過ぎないが、しかし最近はこの当たり前が意外と当たり前ではなくなって来ている。
 前述したように便利な自動測定機が出現したせいか、はたまた共通1次試験のせいかは知らないが、何も考えずに(少なくとも周りからはそう見える)実験セットを組んだらいきなりデータを採り始める人がほとんどである。正確な測定機が間違えるはずはないと信じ切っているためか、いきなり測定条件を片端から測定していき一連のデータを採り終ったらすぐExcelでグラフ化している。確かにきれいでそれらしいグラフが出てくるから、いかにも良い仕事をしたような気分になってしまう。最新の道具は恐ろしいことに、前後のつながりさえ間違わなければ中身に係わらずいかにもそれらしい結果を提供するのである。
 こうして一連の測定を終えて次に条件を少し変えたら、全くかけ離れたデータが得られて、あわてて元の条件に戻してみたが2度と同じデータが得られない。そこで初めて実験方法に問題があることが分かって、考慮をしていなかった新たな要因があるらしいことに気づく。そこから新しい要因を探して実験を最初からやり直す。或いは翌日になってもう一度装置の電源を入れ直したら昨日とは似ても似つかないデータが出てきてしまった。調べたら昨日あやふやにしておいた条件が実はとても効きが激しいことが分かったが、昨日の条件がきちんと記録してなかったので再現出来無い。もう一度この条件をきちんと設定し直して最初からやり直し。こうして何時間・何日といった貴重な時間が失われていく。
 これに対して経験豊かな技術者は、いきなり測定器の示すデータを片端から書くことはしない。まずポイントとなる3~4点についてデータを測定して簡単に(頭の中の)データシート上に値をプロットして当りをつけ、測定値は正しいか・再現性のあるデータが得られているか・条件を変更しなくてもよいか・そして狙い通り意味のある実験かを判断してからデータを採り始めることが結局は効率アップになることを理解している。そして新しいデータが得られる度に、そのデータは頭の中のグラフ用紙にプロットされていく。こうして常に今 目の前に出現しつつある結果を自分の予測値と照らし合わせ、予測通りなら測定範囲は条件のどの範囲にすべきか・パラメータの変化幅は適切か・条件の種類に落ちはないか・次には何をすればよいのかと、少しも脳ミソは休むことなく考えていく。そしてデータが予測値と違ったときは脳ミソが最も激しく回転する時である。実験回路は正しいか・測定器の接続/配置は問題ないか・条件に考え落ちはないか、はたまた推論が間違っていたのか等と、わずかの間にそれまでの何十倍もの事を考える。私の経験ではこのサイクルの中で、単に実験条件の間違いに留まらず設計上の問題に気?くことが多い。時には直接実験しているのではない隣接した回路にバグがあることに連鎖的に気づくことさえある。
 反対に人から指示されて実験を行う場合は、大抵上記とは逆の問題を見事なまでに露呈する。つまり人から指示されて実験を行う場合は、せいぜい簡単な実験目的と方法しか指示されない場合が多い。従って実験を行う側からすれば、どんな結果が得られるはずなのか・どんな結論が予測されるのか知らずに実験をしている場合だってある。時には重要な実験条件さえ正確には指示されていないこともある。こうした場合、実験を行う人は、結果を予想せずにただ実験してデータを採る<測定マシーン>であるから、例え実験方法を間違えて予測値とかけ離れたデータが出てきてもそんなこととはつゆ知らず、ただひたすらデータを採って、Excelでグラフ化してから指示してくれた人に報告にいく。そこで初めて結果と期待値とがかけ離れていることを知らされもう一度実験を繰り返すことになる。こうした仕事の仕方は、貴重な時間の無駄使いになるばかりか、繰り返されれば時には人間関係までおかしくしてしまう。

  それではどうすればよいのか

悩んだ結果、私が行き着いた手法は、実験に先だって予めレポートを書く習慣をつけるということ。「実験する前にレポートを書け」等と言うと冗談だと受け止められかねないが、けして冗談ではない。
 <目的><方法><結果(期待値の概要をフリーハンドのグラフまたは数表等で鉛筆書きで薄く示す)><推論>を1ページの要約レポートにしてみることは慣れればそんなに難しいことではない。15分~30分で要約レポートを書いて、人から指示されたのであれば指示した人に確認してみる。上述したように、大抵の場合はコミニュケーションに問題があるから、まずはこの時点で条件の見直しが行われ無駄な実験が省かれる。もっと甚だしい場合には、指示した人は自分がやるのではないから、最初は差程深く考えずに気楽に指示していて、要約レポートを見せられて初めてそのことに気づきやっと真剣に実験方法を考え直して改めて指示することになる。言ってみれば実験レポートという一枚の仕様書を介して実験を請け負うことになる。
 自分で考えて実験を行う場合でも、まず予測結果を記入しなくてはならないので、期待値を持って実験に望むことになる。期待値があればデータが得られたときに当然期待値との照合が行われ、違っていれば期待値が違ったのか実験方法が違うのかその場で考えることになって無駄が省ける。そしてこの要約レポートは実験が終わってレポートをまとめる時に、結果の所だけを実際のグラフなり表に書き換えればレポートの表紙となって無駄になることはない。
 しかし無駄を省くことはこの方法の第一の目的ではない。何よりこの方法の効果は、実験の前に結果を予測してから実験して、実験の最中は常に期待値と測定データの照合を行わせることで、実験中に脳ミソを回転させる習慣を付けさせることにつながる。何回も言うが、実験などでモノに触れているときが最も脳ミソが高エネルギー状態に活性化され、論理的思考が行える時である。豊富なモノ作りの経験がある人から見れば当然ともいえる「モノに触れながら考える」「指先で考える」という習慣も、モノ作りをした経験のない人にとっては非常に貴重である。

著作権は Y.Nakajima に属します。 無断転載は禁じます。



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