気まぐれ & 気まま & 天邪鬼な老いぼれ技術屋の日々の記録です。
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楽 天 の 商 品

-769- ボーイング787:続き
= 今日は画像なし m(_ _)m =
この下のボーイング787で書いた電池トラブルで新たに思いついたことがあったので書いておく。
それはこの手のシリアスなデバイスの Go/NoGo判断においては、製品メーカーの市場環境の情報や危機意識とデバイスメーカーの理解の一致が鍵になるということ。特に後発メーカーの場合は先発メーカーに比べると様々な要因からその理解が十分でなくなるということ。
私がかつて検討したリチウム一次電池は、記憶では元々Kodakが1982年ころディスクフィルムカメラ用として5年以上交換が必要ない電池として日本の現P社に生産を委託したことがスタートだったと思うが、当時のKodakはそれなりにアメリカの古き良き時代の顧客最優先主義を実践していた(フィルムビジネスというのがそれを許すだけの利幅の大きな独占市場だったと見ることも出来るが)。そのKodakがP社に押し付けた無理難題が、「何があっても外部に被害を及ぼさない安全性」だったと言う。例えば、ブルトーザーで電池を轢き潰しても発火しない、釘を刺しても発火しない、等など。当時はまだリチウム電池など一般にはほとんど知られていない時代だったが、技術者の間では理論的には小型軽量で長持ちする理想の電池だが、一方で「危険」でカメラのように大電流を取り出す用途向けには実用化は難しい、とされていた。その常識に「釘を突き刺しても発火しない」という条件を突きつけたKodakはカメラの使用環境を熟知しており、旅行カバンの中で他の荷物に押しつぶされて航空機に持ち込まれたカメラから火が出た時にはそのカメラの回収だけでは済まない、下手をすればKodakブランドに傷がつき他メーカーに王座を譲らざるを得なくなる事態にまで発展するというリスクを十分に承知していたと思われる。
その要求を受けて電池を開発したP社側は、本当にブルトーザーで轢き潰したかどうか知らないが、数年かけて何万本もの試作品を潰しては改善し、製造ラインの隅々まで安全性を担保する努力をしたという。だから後発メーカーの不具合を受けて、同じ実験をしてもP社の電池は全く異常がおきなかった。片や 10本中半分以上が火を吹き、片や1本も異常を起こさない結果に、検討しながら「ブルトーザーで轢いても・・・」はまんざら嘘ではなさそうだと思ったものだ。
この例で分かるのは、先行メーカーはリスクを十分に考慮して、製品メーカーとデバイスメーカーが使用環境含めてトコトン協力して検討し、「絶対大丈夫」と確信が持てるまで生産に移行しないが、後発メーカーは仕様書や構造が見えてしまっている分、安易にそれを真似するだけで、「何万本もムダにするような」努力、「ブルトーザーで轢くような」一見荒唐無稽な検討はしないということだろう。もちろん、市場参入が遅れれば遅れるほど先行メーカーの独占を許してしまうとか、折角の製品メーカーからの引き合いに製品発売タイミングを逃せないという時間との戦いのような営業や経営からのプレッシャーもあるだろうし。製品メーカーの方からしても、「確立した技術」と捉えれば、仕様書さえ出せばデバイスが出来てくるという安易さがあり、その仕様書中の末尾の方に並んでいる「安全・耐久性」仕様の項目の逐一の現物確認や自社製品での過酷使用検討が甘くなる可能性も高い。しかも今回のケースはフランスのユニットメーカーがボーイングの下請けで電源制御ユニットを納入しておりGSユアサは孫請けだったらしいから、航空機ということは分かっていたにしても、どの程度製品メーカー並みの重大性を認識し、温度・気圧などを含めて実使用環境における過酷使用を想定・実験していたかが疑わしい。
どこで読んだか忘れたが、大衆的な乗り物に大容量電池を積むという判断においては、トヨタの最初の HV車は燃費に効果のあるリチウムイオン電池を諦めてニッケル水素電池を搭載したという判断があったようだが、メーカーの判断としては好対照のように思う。
Li電池
2013/01/22